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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)1393号 判決

主文

昭和三五年(ワ)第一、三九三号事件被告(昭和三五年(ワ)第二、三二三号事件原告以下単に被告という。)は昭和三五年(ワ)第一、三九三号事件原告(昭和三五年(ワ)第二、三二三号事件被告、以下単に原告という。)に対し東京都大田区雪ヶ谷町四六一番地家屋番号同町四六一番四、木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一四坪二勺を明渡せ。

被告の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、原告の求めた裁判

主文同旨の判決および仮執行の宣言

二、被告の求めた裁判

原告の請求を棄却する。

原告は被告に対し主文掲記の建物(以下本件建物という)について東京法務局大森出張所昭和三四年一二月一八日受付第四一、五五一号を以つてなされた所有権移転登記(以下本件登記という)の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は原告の負担とする。

三、原告の主張

(一)  訴外有限会社新井商店(以下新井商店という。)は訴外旭東建築有限会社(以下旭東建築という。)に対し建築請負残代金二四万円の債権を有していたが、両会社は昭和三四年九月一日右債務を目的として次のような準消費貸借契約を結んだ。

1、弁済方法は昭和三四年一二月一五日に金四万円を、昭和三五年一月から四月まで毎月一五日に金五万円宛支払う。右割賦金の支払いを一度でも怠つた時は期限の利益を失う。

2、利息の定めはなく、遅延損害金は年三割六分とする。

(二)  新井商店は昭和三四年九月一日原告に前記準消費貸借による債権を譲渡し、被告は同日右債務を引受け、被告所有の本件建物に原告のため抵当権を設定した。

(三)(1)  被告は昭和三四年一〇月一五日原告代理人訴外大野重信に対し、前項の債務を支払わないときは被告所有の本件建物を代物弁済として原告に譲渡することを約した。被告は第一回の弁済期にその支払いをしないので前記停止条件付代物弁済契約によつて本件建物の所有権は原告に移転した。原告はこれにより同年一二月一八日本件登記手続をした。

かりに右代物弁済契約が停止条件付代物弁済契約でなく停止条件付代物弁済の予約であるとしても、原告は昭和三四年一二月二〇日ころ被告に到達した書面で予約完結の意思表示をした。これが認められないとしても、昭和三六年八月二二日被告に到達した書面で予約完結の意思表示をした。

(2)  かりに原告は以上の代物弁済によつて本件建物の所有権を取得しないとしても、次の理由により所有権を取得した。すなわち、被告は昭和三二年七月二三日訴外芝信用金庫に対し、同金庫が旭東建築に対して有する債権について五〇万円を極度額として本件建物に根抵当権を設定し、あわせて旭東建築が債務を弁済しないときは本件建物を代物弁済として右金庫に譲渡する旨の契約をした。

昭和三三年七月一九日現在で旭東建築の右金庫に対する債務は金三七五、六六四円であつたが、これを履行しないので、原告は弁済につき正当の利益を有するので昭和三五年二月五日右債務元金および損害金等を代位弁済した。

よつて代位の効果として原告は前記停止条件付代物弁済契約の条件成就により本件建物の所有権を取得した。

(四)  被告は本件建物を占有しているので、原告は所有権にもとづいて被告に本件建物の明渡を求める。

(五)  被告主張第二項の事実について本件登記の申請代理人が同一人であり弁護士であることは認めるが、無効であるとの点は争う。本件登記申請は被告主張の法条に抵触しない。

四、被告の主張

(一)  原告の主張第一、二項の事実は認める。同第三項(1)の事実のうち原告が本件登記手続をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。同第三項(2)の事実のうち訴外芝信用金庫と被告の間で原告主張の代物弁済契約のあつたことおよび原告がその主張のように旭東建築に代つて右金庫に弁済したことは認め、その余の点は争う。同第四項の被告が本件建物を占有している事実は認める。

(二)  本件登記は原告、被告とも同一人を代理人として申請してなされたものであるから民法第一〇八条によつて無効である。

右申請は原告および被告の代理人が弁護士であるから弁護士法第二五条第一項第一号に違反し、本件登記は無効である。

(三)  以上のように本件登記はその原因である原被告間に代物弁済契約をした事実なく、かりに代物弁済契約ありとしても、本件登記は無効であり、また原告から前記金庫に代位弁済しても本件建物の所有権を取得するいわれがないから、被告は原告に本件登記の抹消登記手続を求める。

五、証拠関係(省略)

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